2018年3月25日日曜日

【web演奏会】10分で琴古流本曲「砧巣籠」

47回山口籟盟web演奏会【10分で琴古流本曲(34)「砧巣籠」】
ふだんなかなか耳にする機会のない琴古流尺八本曲を、聴きやすい「10分程度」の演奏でお届けするシリーズです。

初代琴古・本名黒澤幸八は、若干19歳にして、長崎・正壽軒(当時は玖崎寺)にて虚無僧・一計より「古伝三曲」「鹿の遠音」「波間鈴慕」など7曲を伝承、さらに全国各地の尺八本曲を蒐集して「琴古流本曲」の基礎を整えたのみならず製管にもたくみで、一躍尺八の名手として一斉を風靡した人物でした。その子である幸右衛門も名人の誉れ高く、父の没後幸八の名と琴古の号を襲名、2代黒沢琴古として活躍しました。さらにその子である雅十郎も幸八の名と琴古の号を襲名、3代黒沢琴古として世に知られています。

3代琴古の大きな業績としては、これまでの本曲の紹介文で度々引用してきた「琴古手帳」という忘備録を残したこと(実際には父の2代琴古が書き綴ったものに3代琴古が書き足したようである)、久松風陽を始めとする優れた門人を輩出したこと、そして今回の演奏曲「砧巣籠」を作曲したことが挙げられると思います。

「砧巣籠」は、「碪巣籠」とも表記され、尺八本曲として有名な「鶴の巣籠(琴古流ではのちに「巣鶴鈴慕」)と同じく十二段構成となっています。曲名から察せられる通り「鶴の巣籠」を強く意識して(というよりもベースにして)、なおかつ「砧」の要素を取り入れたということになるかと思います。三曲の世界において「砧」といえば、「砧もの」「砧地」などの用語が思い当たりますが、これらは「チンリンチンリン」「ツルテンツルテン」といった定型的なリズムの繰り返しが特徴的な器楽的楽曲といえます。つまり「砧巣籠」は、尺八本曲の要素に外曲の要素を加味して成立した楽曲といえるのではないでしょうか。実際、琴古流本曲の中では例外的に、「レ」の連続音を外曲と同じ「4押し」(殆どの曲は「1打ち」)にて行うように指定されています。曲全体を通して似たリズムの繰り返しや、同音の連続音が多用されています。

さらに、この曲によく現れる印象深いリズムが、いわゆる「三・三・七拍子」の音型です。「三・三・七拍子」といえば「応援団」の代表的なリズムパターンですが、これが江戸時代から脈々と日本人に受け継がれてきた伝統的な音型ということが、ここでも立証できるのではないでしょうか。そういえば、本曲でもよく用いられる「打ち詰め」(同じ音を、最初は間隔をあけて、だんだん早くしていく技法)のリズムも、応援団の演出としてよく用いられますね。

この「砧巣籠」は、「琴古流本曲36曲」が成立した頃から「裏の曲のラスト」を飾る1曲であったようで(近代以前はその後に「秘曲・呼返鹿遠音」が構えていた)、文献に残るエピソードにも「最後に習った」とか「この曲だけ残った」などの話が見られる所からも「琴古流本曲の中でも特別な存在」として、歴代大切に取り扱われてきたことが感じられます。師匠・吉村蒿盟師と初めてお会いした際「琴古流本曲の中で一番難しい曲は砧巣籠や」と語っておられたのが心に残っています。「知名度」では「巣鶴鈴慕」の方が上ですが、琴古流のみに伝わるこの特別な一曲を、これからも大切に吹き続けていきたいと決心しております。技術的な難易度も高く、スケールの大きいこの曲を充分に表現するのは大変難しいことですが、「現時点での自分の演奏」として、この場に記録させていただき、今後も精進を重ねたいと思います。





「山口籟盟web演奏会」は、ふだんなかなか耳にする機会のない尺八音楽を、インターネット上で公開する取り組みです。

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