第32回山口籟盟web演奏会【10分で琴古流本曲(20)「巣鶴鈴慕」】
ふだんなかなか耳にする機会のない琴古流尺八本曲を
聴きやすい「10分程度」の演奏でお届けするシリーズです。
琴古流本曲表のうち20曲め、表の曲の最後を飾るのが「巣鶴鈴慕(そうかくれいぼ)」です。「琴古手帳」によれば、京都宇治吸江庵にて龍安より下総一月寺の御本則小嶋丈助(残水)が伝来し、同人から琴古が伝承したということです。かつては「鶴の巣籠(つるのすごもり)」と称したようですが、琴古の高弟・宮地一閑の一門(一閑流)において「巣鶴鈴慕」と称すようになり、のちに豊田古童が一閑・琴古両流の流れを受け継いだ関係で、それ以降の琴古流においては「巣鶴鈴慕」と呼ばれるようになったということです。
「鶴の巣籠」とは、尺八本曲、さらには胡弓の本曲としても有名な楽曲であり、地域ごとに様々な伝承が伝わっています。「焼け野の雉子(きぎす)、夜の鶴」という言葉があり、これは「野を焼かれるときに雉(きじ)の親は身の危険をかまわず子を助けようとするし、寒い夜、巣篭もっている鶴は、自分を忘れて子を暖めるためにその翼で覆うものである」つまり親の子に対する深い愛情を意味するものだそうです。「夫婦愛」を描いた「鹿の遠音」とともに、「親子の愛情」を表現したこの「鶴の巣籠(琴古流では「巣鶴鈴慕」)は、普化宗の禅味を帯びた宗教的楽曲の多い尺八古典本曲の中でもとりわけ表現的技巧に富み、名曲と称されることが多いように思います。江戸時代から「尺八の曲といえば鶴の巣籠」というイメージを持たれるほどに有名だったようで、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」九段目で、加古川本蔵が虚無僧姿で登場して吹くことでも有名です。
琴古流の「巣鶴鈴慕」は十二段から成り、鶴の巣づくり、子育て、親子の情愛、そして子の巣立ちまでを描いています。曲調の特色としては、1・2孔を交互に開閉してトレモロのような音を出す「コロコロ」、喉仏でフラッターのように小刻みの音を立てる「玉音(たまね)」などが羽ばたきや鶴の鳴き声を表現するほか、この曲にしかない独特の指使いやアタリ、連続音の指使いなどが多数あり、36曲ある琴古流本曲の中でも特に高度な技巧を要する難曲とされています。また、この曲は琴古流尺八の人間国宝で竹盟社宗家であった故・山口五郎師の「十八番」としても有名で、昭和52年(1977)に米国無人惑星探査機「ボイジャー2号」に搭載された、いわゆる「ゴールドディスク(「地球の音」を宇宙に向けて発信した純金製のレコード)」に、「日本を代表する音」として五郎先生の演奏された「巣鶴鈴慕」が収録されています。竹盟社の琴古流尺八演奏家としても、特に「巣鶴鈴慕」は会派の誇りとする代表的楽曲であると同時に、演奏するのに大変気が張る曲でもあります。
「巣鶴鈴慕」は同一フレーズの繰り返しが多く、大体どの旋律も3回の繰り返しが譜面に指事されています。ただ、実際の演奏ではそうした繰り返しは省略することが多く、もし省略した場合でも十二段すべての旋律を演奏するとなると20分以上の時間を要します。私が師匠からお習いした際は、この「3回繰り返し」を省略し、全十二段を通す「23分バージョン」と、十二段すべてを演奏するわけではないものの、主な旋律や曲の聴きどころを中心に抜粋した「13分バージョン」の二通りをお習いしました。今回は後者の「13分バージョン」の演奏(実際の演奏にかかったのは12分と少々)をお届けいたします。難曲ゆえ、全ての旋律が完全な理想通りの仕上がりとまでは言えませんが、現段階での自分の力で演奏した「巣鶴鈴慕」ということで、お聴きいただければありがたいです。
なお、この「巣鶴鈴慕」で琴古流本曲の「表の曲」が全て終了します。20ヶ月をかけて、琴古流本曲の表の曲を全て演奏公開することができましたのも、聴いてくださる皆様のおかげと心より感謝申し上げます。
それから、この「巣鶴鈴慕」のあと、私、山口籟盟の「web演奏会」は、しばらくお休みを頂きます。「web演奏会」名義の動画が32本、「ジョイントweb演奏会」や、その他のライブなどの動画も含めると50本程度の動画を公開させて頂くことができましたが、「而今の会」の準備が本格化してきたことと、ちょっと一度「オフ」にすることで、しばらく自分の演奏と動画との関わり方を見直してみたいと考えております。これまで長らくの「動画での演奏会」のご愛顧、本当にどうもありがとうございました!!
※「山口籟盟web演奏会」は、ふだんなかなか耳にする機会のない
尺八音楽を、インターネット上で公開する取り組みです。
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