第19回山口籟盟web演奏会【10分で琴古流本曲(9)「虚空鈴慕」吹合せ】
「虚空鈴慕」の歴史的な解説については、「霧海篪鈴慕」の項をご覧ください。また、一人吹きの演奏(抜粋)は、H28.7.17 Live @ 福岡市天神・みちのく夢プラザ「第3回 東北系古典本曲の会」の演奏を公開しておりますので、合わせてご覧いただけると嬉しいです。
この虚空鈴慕は全曲を通すと30分近くかかる大曲であり、大きく4つの部分(青譜では「4段」)に分かれています。ここでは便宜上、青譜の呼称を借りてご説明しますと、まず初段は「起」とでもいうべき、虚空らしいスケール感のある雄大な旋律で始まります。特に冒頭の「ツレー、レー、レー、チチウー」は、琴古流以外の各流各派の「虚空」とも通じる、「虚空のアイデンティティ」とでも呼ぶべき旋律かと思われます。
続いて「承」とでも呼ぶべき2段は、初段の雰囲気は受け継ぎながらも、一転して乙音の低音域中心の落ち着いた旋律が展開されます。
さらに「転」の3段では、高音域の緊張感漂う鋭い旋律が特長です。
そして「結」の4段では、本曲としては拍子的な進行の中に、流れるような美しい旋律が出現します。このように虚空鈴慕は、古伝三曲としての品格の高さを有しながら、宗教的な要素ばかりではない音楽的な美しさや構成の形式美をも兼ね備えた名曲といえるかと思います。
琴古流本曲の「虚空鈴慕」のもう一つの特長は、2段と4段が「段合わせ」できるようになっている点です。「段合わせ」と言えば、箏曲「六段」の各段を同時に演奏開始すると合奏することができることでも有名です。拍子数が一定で、変奏曲のように似た構成の旋律になっていることから、このようなことが可能なわけですが、地歌箏曲の中には「古典へのオマージュ」とでもいうか、それまでに作曲された他の楽曲と段合わせができるように、わざと拍子や調、旋律の構成をそろえている曲がいくつも存在します。
琴古流本曲では、「転菅垣」や「下り葉の曲」などで、曲の前半と後半がぴったり段合わせできるようになっている例がありますが、宗教的に最も重んぜられるところの「古伝三曲」においてこのような作曲・編曲が行われ、今日まで伝承されていることは、大変興味深いことと思います。
今回の演奏では、「転菅垣」同様の「多重録画」を用いて、二段と四段の吹合せを再現してみました。「みちのく夢プラザ」のライブでは、各段を少しずつ拾い上げた形の抜粋ですが、二段と四段による合奏も、琴古流本曲らしい、普化禅の雰囲気と音楽的な要素が融合した、独自の世界観を演出するものであり、これからも末長くこうした吹合せを、尺八演奏者どうしで楽しんで行きたいものと願っているところであります。
なお、この「虚空鈴慕」は、かつては単に「虚空」と呼ばれておりました。琴古流本曲としては、初代黒沢琴古が19歳の時、長崎の虚無僧寺・正寿軒にて一計子より伝授されました。
※音源をステレオで編集し、左スピーカーから二段、右スピーカーから四段が出るようにしております。スピーカーの設定で、どちらか片方の音のみにすることが可能です。
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