【ジョイントweb演奏会:中村 建(北海道)・山口籟盟(福岡県)】
琴古流本曲『鹿の遠音』
Facebookでお知り合いになった、北海道大学の中村 建さん(琴古流尺八荒木派)と、福岡県在住の山口籟盟(琴古流尺八竹盟社)による、「オンラインでの共演」です。
中村さんとの出会いは、昨年夏にたまたま出会った『八段』のYouTube動画でした。北海道大学邦楽研究会の夏の演奏会の映像で、あの難しい『八段』の尺八を「この人は琴古流の専門家か!?』というような説得力のある技法と音色、合奏技術で演奏されていて、驚愕した覚えがあります。他に動画がないかと検索してみると、『四季の眺』などの動画もあり、『八段』と同様に素晴らしい演奏でした。また大学3年生のときの定期演奏会では『残月』を披露され、1曲を暗譜による気迫の演奏で通されたのには「圧巻」の一言につきるものがありました。さらに、年を越して今年の1月には琴古流本曲の演奏動画も公開されるなど、学生さんとは思えない古典の演奏力を発揮され、精力的に活躍中です。
中村さんは長野県のご出身で、琴古流荒木派のお父様に師事されたとのことで、幼少期より古典の素養を身につけた端正な尺八を吹かれていたという話も耳にしました。地元の高校を卒業後、北海道大学に進学され、有島武郎の研究をされているということで、日常を和服で過ごされたり、旧漢字・旧仮名遣いを使用されたりするなど、自分との共通点も多く、「ああ、学生時代に出会っていたら、きっと気の合う友人としていろいろ交流できただろうな」などと思ったりしました。Facebook友達になってからも、尺八を始めいろいろな話題でメールが盛り上がり、「ジョイントweb演奏会でご一緒にいかがですか?」とお誘いしてみたところ、快諾していただきましたので、琴古流本曲の代表曲『鹿の遠音』の吹合せをさせていただきました。
以前、中村さんの動画をFacebookでご紹介させていただいた時も触れましたが、中村さんの芸は琴古流の中でも「荒木派」といって、戦前の名人として名高い3世荒木古童の芸系となります。飾らない気骨あふれる音色と、流麗なアタリやスリといった技巧が組み合わされ、今ではなかなか聴くことのできない、琴古流古来の伝統の技が平成の現代に至るまで脈々と受け継がれてきた貴重な本曲です。学生邦楽や若手奏者には、管楽器としての尺八奏法に秀で、洋楽の知識も深く、本当にお上手な方がたくさんおられます。しかし、この中村さんのように、幼少期からの古典の素養と高い演奏力を持った、こうした古来の琴古流の技を、この若さで実現できているというのは、本当に稀有な例なのではないでしょうか。
中村さんとも、何度もメールで音源のやりとりを行いながら「オンライン下合わせ」を重ね、曲を仕上げていきました。「鹿の遠音」は「掛け合い」の形で2管の尺八が交互に演奏をしていく形式のため、それぞれの演奏をどのタイミングで重ねていくかなども、パソコンによる音源の合成操作を重ねながらあれこれ試し、合奏を作り上げていきました。また、年始には郷里に帰られたタイミングでお父様との合奏の音源を送ってくださり、大変勉強になりました。お父様には、この場をお借りして御礼申し上げます。掛け合いの回数やタイミングは、荒木派の方法をベースにしています。
今回の「オンラインの共演」は、九州と北海道という、日本でも地理的に最も離れた2人の奏者による「鹿の遠音」となります。しかし、場所は離れていても、琴古流本曲に対する熱い思いをしっかりと共有でき、本当に楽しい共演をさせていただきました。中村さんには、今後ともますます研鑽され、ぜひともご活躍されますよう、心より応援申し上げております。どうぞご視聴よろしくお願いいたします。
~共演者・中村 建さんよりコメント~
昨年より山口様は「オンライン共演」に取り組まれてをられますが、この度「鹿の遠音」を演奏するに當たつて私のごとき未熟者をお誘ひ頂き、誠に難有うございました。これまでの「オンライン共演」の曲目とは異なり、拍節が一定しない(或いはない)「鹿の遠音」を「オンライン共演」の形で演奏するのは、色々困難もあるやうに感じました。今後、色々研究が必要かと思ひます。是非とも山口様と直接お會ひして合奏出來る機會があれば幸ひです。