【第42回山口籟盟web演奏会【10分で琴古流本曲(29)「鳳将雛」】
ふだんなかなか耳にする機会のない琴古流尺八本曲を、聴きやすい「10分程度」の演奏でお届けするシリーズです。
「裏の曲」9曲目は「鳳将雛」です。
この曲は『琴古手帳』の記述を根拠に、初代琴古が手付け(作曲)をし、鈴法寺の勇虎尊師、泰巌尊師に届けたものといわれてきました。しかし、佐藤晴美師が琴古社から琴古流本曲の譜本を出版するにあたり、全国各地から琴古流本曲の各種の異本を収集し対照参考にする中で、熊本から取り寄せた「鳳将雛」の古譜をもとに、肥後細川藩の支藩である、宇土藩の6代目藩主・細川興文(月翁)公が作曲し、それを初代琴古が前半1/3の手を増補したものとする説を唱えました。さらに、その宇土藩主・細川月翁公の所蔵していた琴古流尺八関連の古文書(通称、『月翁文献』)の詳細が、虚無僧研究会の機関紙『一音成仏』において公開され、月翁公が隠居し、江戸から熊本に戻る直前の明和9年(1772)、2代目琴古から集中的に琴古流本曲・表18曲の伝授を受けたこと、その最終日に「鳳将雛」を完成させ、安永2年(1773)琴古流の新曲として認定されたこと、同時に月翁公が「本則(虚無僧の免許状)を受けたことなどが明らかにされました。よって現在、この曲は2代目琴古門人・肥後宇土藩主・細川月翁の作曲によるものと認知されております。
ちなみに、他の多くの琴古流本曲とは趣を異にする「鳳将雛」という曲名は、『晋書、楽志』『古楽府、隴西行』『楽府詩集』を出典として「呉声十曲の中の三が鳳将雛という」とあるそうで、当時高い文化的素養を持ち、詩文や俳句、茶道なども良くしたといわれる月翁公ならではの命名ではないかと言われております。なお「鳳将雛」とは鳳凰の雛のことで、麒麟児や神童と同じく幼くして才覚を見せる男児を意味するとのことです。
全曲を通すと20分以上かかる楽曲ですので、今回はその中から、曲中何度も奏される「ウチー、ウー、チウチウツールー引」の手が印象的な前半部と、中盤以降の高音の部分を中心に抜粋しております。高音の部分は、他の琴古流本曲とはひと味違った、雅楽を思わせるような旋律が特徴的です。また、曲中の「コロコロ」の手は、鳳凰の雛の鳴き声を模した手だと言われています。
※「山口籟盟web演奏会」は、ふだんなかなか耳にする機会のない尺八音楽を、インターネット上で公開する取り組みです。